相続人に意思能力・判断能力のない方がいる場合の遺産分割はどう進める?成年後見の申立ての注意点と申立て方・リスクを弁護士が解説

相続手続を進める際、相続人の中に認知症、知的障害、精神障害などにより意思能力や判断能力が不十分な方が含まれているケースは少なくありません。
法律上、有効な遺産分割協議を行うためには各相続人に意思能力や判断能力が必要です。そのため、意思能力や判断能力を欠く相続人がいる状態では、そのまま協議を進めることができません。
本文では、相手方に後見人を就かせるメリットや注意点、成年後見の申立て手続、無効リスク、未成年者や行方不明者との違い、更には法改正による最新のポイントまで、弁護士が分かりやすく解説します。
後見人を就かせたい方へ
①本人の同意なしで手続の進行が可能
判断能力が低下した相続人がいる場合、その親族や他の相続人が代理で署名・押印することは認められません。法的な権限を持つ成年後見人(又は保佐人、補助人)が選任されれば、本人の意思表示を法定代理人が補う形となるため、相手方本人の個別同意が得られなくても遺産分割協議を進めることが可能になります。
②「放置」という選択肢が実質的になくなった背景
従来は手続の煩雑さから協議を放置するケースも見られました。しかし、近年の法改正により、放置するリスクが極めて大きくなっています。
・相続登記の義務化
不動産を取得した相続人は、所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務付けられました。正当な理由なく違反した場合は過料の対象となります。
・相続税の申告期限(10か月)
相続税の申告及び納付は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。期限までに遺産分割がまとまらない場合、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減といった税制上の優遇措置の適用を受けられず、一時的に多額の税金を納めなければならないリスクが生じます。
成年後見の申立ての流れ・費用・期間の目安
成年後見(後見開始)の申立ては、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。
①申立ての流れ
必要書類(戸籍謄本、住民票、医師の診断書、財産目録など)を収集・作成し、家庭裁判所へ申立てを行います。
申立て後、裁判所による面接、鑑定手続(本人の判断能力の程度を医学的に調査する手続)などを経て、審判が下されます。審判確定後、法務局に成年後見登記がなされます。
②費用の目安
申立手数料(収入印紙)や連絡用郵便切手、登記事項証明書等の実費として数千円から1万5000円程度が必要です。また、裁判所が鑑定を必要と判断した場合、別途鑑定費用(数万円から10万円程度)がかかる場合があります。弁護士等の専門家に申立て手続を依頼する場合は、別途弁護士費用が必要となります。
③期間の目安
申立てから後見人が選任されるまでの期間は、スムーズに進行した場合でも概ね2か月から4か月程度を要します。申立準備の期間も含めると、より余裕を持ったスケジュール管理が必要です。
後見人が就いた場合の遺産分割で注意すべき点とは?
①本人の法定相続分を下回る内容の分割は原則不可
成年後見人は本人の財産を保護する立場にあります。そのため、遺産分割協議において「本人の取得額をゼロにする」あるいは「本人の法定相続分を大幅に下回る」内容の合意をすることは、原則として家庭裁判所や後見人から認められません。
②柔軟な調整の考え方(居住権と現金の代償など)
「同居している相続人が自宅不動産を継ぎたい」という場合、不動産を取得する相続人が、代わりに相応の現金(代償金)を本人の財産として支払うといった具体的な調整を行うことが求められます。本人の生活環境の保護と財産的権利の確保の両立を図ることが重要です。
③利益相反による特別代理人の選任
例えば、母親が亡くなり、相続人が父と子(認知症)であるケースで、父が子の成年後見人になっている場合、父と子はともに相続人としての立場(利害対立関係)を有します。このように後見人と被後見人の利益が反する(利益相反)場合は、後見人は子を代理できません。この場合、家庭裁判所に「特別代理人」の選任を申し立てる必要があります。
意思能力や判断能力がない相続人に遺産分割協議書を署名させるリスクについて
①家族による代筆・押印の危険性
「本人は高齢だが家族が了解しているから」と、家族が代筆して名前を書いたり、実印を預かって押印したりする行為は、法的に私文書偽造等の犯罪行為や無権代理行為に該当する危険があります。
②協議の無効と手続のやり直し
意思能力や判断能力がない状態で行われた遺産分割協議は、法律上「無効」となります。後から他の親族や第三者、選任された後見人などから無効を主張された場合、過去に完了した不動産登記や預貯金の解約手続きまで全てやり直しとなり、重大な紛争に発展するリスクを負います。
相続人が未成年の場合・行方不明の場合との違いを弁護士が解説!
相続人の中に手続きを進められない方がいる場合、その理由によって利用する法的制度が異なります。
・未成年者の場合
親権者が共に相続人である場合は利益相反となるため、家庭裁判所に「特別代理人」の選任を申し立てます(未成年者が成年に達した場合は通常の協議が可能です)。
・行方不明者の場合
従来の制度では、不在者の財産を管理する「不在者財産管理人」の選任を申し立てて協議に参加させる必要がありました。なお、2023年(令和5年)施行の改正民法により、特定の財産のみを管理・処分できる「所有者不明土地・建物管理制度」なども新設され、事案に応じた選択肢が広がっています。
・判断能力が不十分な成人の場合
前述のとおり「成年後見制度(後見・保佐・補助)」を利用して代理人を選任する手続が必要です。
2026年成立の成年後見制度改正で何が変わるのか?
成年後見制度については、利用者の利便性向上や権利擁護の観点から見直しが進められ、2026年には制度改正に関連する法整備が行われています。主な改正のポイントは以下のとおりです。
①補助等への整理・一本化に向けた見直し
本人の残存能力を最大限に尊重し、必要最小限の支援を行う観点から、旧来の硬直的な区分が見直され、より本人の意思を反映しやすい仕組みへと再編されています。
②終身制の見直し等
一度後見人が就くと原則として本人が亡くなるまで支援が続くという「終身制」の運用が改められ、一定の課題が解決した段階での見直しが可能となる方向性が打ち出されました。
③スポット利用(目的別利用)の導入
「遺産分割協議を終えたい」「特定の不動産を売却したい」といった、特定の目的を達成するための期間限定的な利用(スポット利用)が認められるようになり、利用者の負担が軽減されます。
④後見人の交代の柔軟化
本人の事情の変化や後見人との相性等に応じ、後見人の辞任や交代が従来よりも円滑に行える仕組みが整備されています。
遺産分割調停を弁護士に依頼するメリットとは?
当事者間での協議や後見人の選任申立て、遺産分割調停の進行を弁護士に依頼することにより、以下のメリットが得られます。
・複雑な法的合意案(代償分割など)の策定と家庭裁判所・後見人とのスムーズな交渉
・成年後見・特別代理人・不在者財産管理人など、事案に最適な申立手続の一括サポート
・親族間の感情的対立の緩和および不当な無効主張リスクの回避
相続人の判断能力にご不安がある方は弁護士法人松本直樹法律事務所へご相談を
相続人の中に認知症や障害等により判断能力に不安がある方がいらっしゃる場合、自己判断で進めることは将来の法的トラブルを引き起こす原因となります。
宇都宮市所在の弁護士法人松本直樹法律事務所では、成年後見の申立てから遺産分割協議・調停の代理まで、法的根拠に基づいた最適な解決策をご提案いたします。まずはお気軽にご相談ください。
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